「動かない、強く見える」
数日、クモを見かけませんでした。いつもの位置にある糸を確かめても、相変わらず心細そうなものがふわっとあるばかり。
このところの寒さで……と嫌な想像もしましたが、そればかりは何ともできません。
すると昨夜、すっかり暗くなってから車に乗り込もうとした時、クモがいることに気づきました。
家の窓から漏れる明かりに照らされて、糸の真ん中あたりに丸いものがしっかり目に映ったのです。
運転席に座ってから、窓越しに顔を近づけてクモの様子を見てみました。
逆光に浮かぶクモの姿は、ピクリとも動きません。
いつか昼に走っている車から見たように、手足をもがくようなしぐさもしません。
それなのに、なぜかその姿から力強い生命力のようなものが感じられます。
まるで、暗くなった今こそが自分の得意な時間なのだとでもいっているように。
インクの染みの抽象的な形を見て、何に見えるか?という臨床で使われる心理テストをご存知の方がいると思います。
同じ形を見ても、見る人によって何に見えるか違ってきます。
投影法と呼ばれるもののひとつです。
日常でも、自分の内面は見えにくいけれど、何か別のものに触れたときに、自分というものが見えてくることがあります。
それは他人の存在そのものであったり、出来事であったり、物などであったりします。
投影という文字通り、光に映し出されたクモの影は、動かない。
この状態を見て感じることも人によるのだと思います。
昨夜の自分には、動かないクモが、強く勇ましく、かっこいいもののように見えました。
「動じない」ことに憧れているのかもしれません。
2011年10月29日
クモの巣・7
posted by サトウマリコ at 12:21| Comment(0)
| コラム
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